研究概要 |
これまでに、ラット繊維肉腫、ラット繊維腺腫、ラット乳頭状腺腫、イヌ扁平上皮癌イヌ可移植性性器肉腫、チャイニーズハムスター肝細胞癌、イヌ肝臓癌、イヌメラノーマのそれぞれの血管系について観察してきた。それぞれの腫瘍に共通する特徴として、1)腫瘍血管には血流調節装置であるintra-arterial cushionが存在しない、2)腫瘍に分布する動脈では、血管中膜を構成する平滑筋細胞に退行性変化が見られる等を確認した。2005年度の研究では研究範囲をさらに広め、観察の目的を、ラット乳癌およびイヌメラノーマの血管構築を明らかにすることとした、観察の主眼を腫瘍組織内での血管新生過程と血管系の退行過程(中心壊死の形成過程)とした。 研究方法は以下のとおりである。1)7,12dimethylbenzanthraceneをラットに投与し乳癌を得る、臨床獣医師の協力のもとで自然発生の口腔メラノーマ(イヌ)を得る。2)乳癌およびメラノーマの血管系の樹脂鋳型標本を作成し、3>得られた標本を走査型電子顕微鏡で観察する。観察結果は以下のとおりである。乳癌もメラノーマも血管新生の過程は共通で、1)既存の血管に新しい細い血管が刺状に発達(buddingの形成)する。2)隣接する同様の血管から同様のbuddingが進展する、3)buddingが次第に進展し先端付近で互いに連結し、一つのhair-pinを形成する、4)それぞれのhair-pinが互いに連結し複雑な血管網を形成する。また、血管系の退行は以下の過程を経ることが解明された。1)腫瘍動脈の平滑筋細胞に変性(形質溶解、空胞化)が起きる.2)動脈壁が薄くなり血管腔が拡張し静脈化する.3)腫瘍中心部では血管腔の狭窄、扁平化、断裂が起き、本来の血管構築が消失する,今回の研究により、腫瘍血管の新生過程および退行過程(中心壊死の形成過程)を三次元的に詳細に示して、腫瘍血管の特性を明らかにすることができた。さらに、メラノーマでは、旺盛な血管新生の状況およびメラノーマの血管構築を詳細にかつ立体的に示すことができた。周辺リンパ節に転移したメラノーマの血管系についても同様に観察し、原発巣とほぼ同様の所見を得た。
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