研究概要 |
我々はComet assayによって多くの癌原物質のin vivo遺伝毒性をマウスの多臓器で検討してきた。その結果、大多数の癌原物質はマウスで癌原性標的臓器となることが極めて希な結腸のような臓器でも遺伝毒性を示すことが明らかになった。遺伝毒性試験は最大耐量に近い高用量の単一投与で行われることが多く、我々のComet assayのデータもそのようにして得られたものである。しかし、癌原性は低用量長期投与によって検出されることが多く、投与用量と投与期間は両試験で大きく乖離している。このことが遺伝毒性と癌原性で標的臓器が一致しない一因となる可能性がある。癌原性試験においても、混餌、混水投与のほうが強制投与よりも陽性率が低いことが報告されている(Johnson, 2002)。ここでは、マウス肝癌原物質、マウス肝非癌原物質の遺伝毒性を、強制経口投与による場合と混餌投与による場合で比較した。 雄マウスに6日間混餌投与し、投与1日目から経時的に屠殺し、8臓器のDNA損傷をComet assayで検出した。単回の強制経口投与と1日の混餌投与を比較したところ、1日当たり投与量が混餌投与のほうが高い場合であっても混餌のほうが遺伝毒性が陽性となり難い傾向にあった。また、単回の強制傾向投与では癌原性の臓器特異性とは無関係に広範囲の臓器で陽性であったが、混餌投与では癌原性非標的臓器である消化管は陰性となる傾向にあった。1日の混餌投与で遺伝毒性と癌原性が一致しない場合も、投与期間の延長に伴って癌原性標的臓器である肝は陽性に、癌原性非標的臓器である結腸では減衰し4日目からは陰性になる傾向にあった。このことから、in vivo Comet assayにおける遺伝毒性試験の結果には投与形態が重大な影響を及ぼすこと、肝癌原性を予測する場合に混餌投与が有効であることが示唆された。コメットアッセイはDNAに生じたDNA初期損傷を検出するのみであり、その結果からDNA初期損傷の運命を論じることはできない。発癌の過程を考えると、誘発されたDNA初期損傷が修復されるか、染色体異常や突然変異として、固定されるか、あるいはそれを持った細胞が死に至るかが重要である。そこで、マウスの消化管および肝(再生肝)において食用色素による染色体の異常の誘発とコメットアッセイの結果と比較し、初期損傷の運命の検討を試みた。DABは発癌標的臓器である肝ではDNA損傷が染色体の異常として固定されていたが、消化管粘膜ではそのような結果は得られなかった。また、発癌性試験では陰性となっているタール系食用色素は消化管でDNA損傷の誘発がComet assayで示されたものの、それらは染色体の異常として固定されていないことが示された。このことから、Comet assayと小核法の併用のようにDNA初期損傷の誘発とその固定を併せて検出することが、発癌性の予測に有効であると考えられた。
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