これまで系の複雑化を嫌って進化してきた近代農業が本質的にもつ問題点を克服し、持続性を前提とした新たな作物生産システムを構築していく際のオプションを用意する目的で、本研究ではホテイアオイを水面被覆植物として積極的に水田に導入した場合の影響を調べることにした。2002年に筑波大学農林技術センター内の水田で行った実験では、処理区として、(1)慣行栽培の無処理区(CC)、ホテイアオイ導入した(2)低密度区(LD)、(3)高密度区(HD)を各3反復で設けた。ホテイアオイはLD区ではイネの半分の密度、HD区ではイネと同じ密度とした。実験の結果、わら重はCC区とLD区がともにHD区より増加し、精籾重はCC区がLD区とHD区より増加した。イネが固定した炭素量はCC区とLD区がHD区より多く、ホテイアオイが固定した炭素量はHD区がLD区より多くなった。以上のことから、<イネ+ホテイアオイ+雑草>合計の単位面積当たり炭素固定量としては、LD区とHD区が、CC区より多くなった。ホテイアオイを水田に導入したことによる得失の一端が明らかになったが、その中でホテイアオイ導入による負の影響はLD区がHD区よりも小さく、炭素固定量はLD区とHD区間準差がみられなかったことから、LD区でより顕著な導入効果が認められた。本年度の実験から、(1)養分競合の回避、(2)ホテイアオイの最適密度の探求、(3)空間の住み分け、(4)水質浄化効果の検証、(5)ホテイアオイの雑草化の追跡などが今後の課題として考えられた。なお、同時並行で行っている水田からの温室効果ガス発生と制御、とくに炭素循環ついてはほぼ期待した通りの結果が得られたが、ここでは紙数の関係から詳細を割愛する。
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