バクテリアセルロース(BC)には、通常のセルロース繊維には見られない優れた特性を有することから、セルロース合成遺伝子の解析、セルロースの物性、発酵生産などについて研究され、工業製品への利用が図られてきた。BC合成細菌の培養には、廃糖蜜に含まれる残存糖などが汎用されているが、産出国が限定されること、廃糖蜜の値段も変動することなどから、価格の高いものになりやすい。BCを汎用性の高い生物資源とするためには、より安価で供給の安定した原料を使用することが必要である。食品加工、農水産業、都市生活に伴いさまざまな生物系有機性廃棄物が発生する。これらの多くは化石燃料を費やし焼却処分されるなど、再資源化プロセスに乗った有効利用の割合は高くはない。しかし、循環型社会創成のためには、生物系廃棄物も重要な資源として捉え有効利用してゆくことが必要である。本研究の目的は、国内での処理で問題となっている生物系有機性廃棄物をBC合成の材料とする事である。特に、生物系廃棄物には塩分を含むものが多いが、すでに利用されているBC合成酢酸菌は塩濃度の増加に伴い生育セルロース合成量共に強く抑制されることから、塩に対して耐性を示すセルロース細菌を新たに取得し、塩含有廃棄物への適用を目指した。海藻、土壌、果実、花卉から純粋分離した細菌、2053株のうち60株に菌叢形成が見られ、その中のstrain523にBC合成能のあることが確認された。523株はグラム陰性桿菌でオキシダーゼ陽性で呼吸鎖の電子伝達系としてQ-10を含む。本菌株は1.5%NaClを含む培地中でもBCを生成することが可能であり、耐塩性を有するBC合成細菌が本研究によってはじめて単離された。今後はこの細菌株を用いて、BC合成条件ならびにその利用などについて検討を行う計画である。
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