バクテリアセルロース(BC)には通常のセルロース繊維には見られない優れた特性があることから、工業製品への利用が図られている。本研究では廃糖蜜に替わるより安価な生物系廃棄物の利用をめざし、塩分存在下においてもBCを合成する細菌の単離とその培養を目指している。昨年度、2053株の中から選抜されたBC合成細菌strain 523を用いて、本菌株の分類ならびにBCの性質について調べた。Strain 523はユビキノン10を含むグラム陰性桿菌で16S rRNA遺伝子の塩基配列の解析の結果、アルファプロテオバクテリアのSinorhizobium属に属することが確認された。炭水化物やアミノ酸類に対して広い資化性を有したが、有機酸類の利用能は低く、培地のpHは6.5で、そしてNaCl濃度が1.5%以内であれば極めて安定にBCを合成する。電子顕微鏡による観察の結果、strain 523の合成する微細繊維は5~10nmの細さであり、これまでに酢酸菌で知られているBCよりも更に細い繊維であることが明らかとなった。このBCをリサイクルLBKPおよび新聞古紙に対して1%または5%(w/w、乾燥重量)添加し、手すきシートを作成した後に引張強さ、破裂強さ、耐折強さなどの物性を測定した。その結果、BCを添加していないシートにくらべて明らかに強度の向上が認められ、その割合は酢酸菌が合成したBCを添加したものとほぼ同等であり、紙添加材としての有効性が確認された。本菌株によるBC合成は、すでに工業化されている酢酸菌と比べた場合、まだ15分の1程度であり、培養条件の検討などによってその向上を図ることが課題である。しかしながら、酢酸菌と比べた場合に、より過酷な条件でBCを合成できること、その繊維がより微細であるため繊維間結合の強化においては優れることが考えられることなどから、今後の応用が期待される素材といえる。
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