植物のセルロース繊維にはない特徴を有するバクテリアセルロースの利用を目的として、さらにその原材料として塩分含量が高い生物系廃棄物の有効利用を目指し、耐塩性セルロース合成細菌を探索してきた。その結果、1.5%NaClに対しても耐性を示す523株を土壌から分離することが出来た。平成16年度の本研究課題においては、(1)523株の種レベルの同定、および(2)セルロース合成量の向上、を目的として研究を進めた。(1)16SrDNAのほぼ全長シークエンスに成功し、さらに形態学的ならびに生理学的性質について詳細に調べ、523株が根粒菌の1グループであるSinorhizobium属に属する細菌であることを明らかとした。(2)これまでの本研究課題において、523株が合成するセルロースは古紙の紙質向上に有効であることが明らかとなっている。しかしながら、本菌株のセルロース合成は、報告例のある酢酸菌に比べ低く、培養条件についてさらに検討を加えることが必要であった。Sinorhizobium属細菌は植物の根に根粒を形成する際に、菌体外に伸長させたセルロース繊維が支持体として有効に機能することが報告されている。そこで、523株においても、培地成分、培養容器、培地容量、担体の有無などの諸条件を変化させ、その時に形成されるセルロース膜の形成を詳細に調べた。その結果、これまでの液体培養における生育にくらべて高いセルロース合成を可能とする生育環境を見出すことができた。 Sinorhizobium sp.523株は、従来の酢酸菌と比べ、NaClが存在するより過酷な条件でセルロースを合成できること、またその繊維が酢酸菌のものよりも微細であることなど、これまでに実用化されているものとは異なる特徴のあることが明確となり、今後の応用が可能な素材であることが明らかとなった。さらに、微生物を用いて塩分を含むバイオマスを再利用し資源を再生することによって、それを循環型社会の創成に役立たせることを可能とした。これまでの研究成果を総括し、学術雑誌へ発表する。
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