狂牛病はヒト新型Creutzfeldt-Jacob病との関連が強く示唆されているものの、変異性異常プリオンの感染様式を初めとして多くの点が不明である。食生活の欧米化のみならず、医療品、生活用品その他、日常生活が高度に牛由来物質に依存している現在では、緊急回避的には病畜の廃棄などで対処するしかないが、未来遠望的には抜本的な対策が急務である。そこで本研究では体細胞クローン技術と遺伝子工学的技術を応用した狂牛病に感染能を持たない牛の作製のための基盤研究を行う。 その第一段階として、牛プリオン遺伝子が欠損した黒毛和種ウシ胎仔線維芽細胞の樹立を試みる。 昨年度は、黒毛和種由来のゲノムDNAライブラリーをスクリーニングし、プリオン遺伝子を含むゲノムクローンを分離した。このDNAを用いて、プリオン遺伝子ノックアウト用のターゲティングベクターを構築し、黒毛和種ウシ胎仔線維芽細胞に導入し、ターゲットされたクローンをPCRによってスクリーニングした。2種類の細胞株に合計4回のトランスフェクションを行い、631個のクローンをスクリーニングしたが、ターゲットされたクローンを検出できなかった。 今年度は、新しいターゲティングコンストラクトを作成し、更に検討を行った。7回のトランスフェクションを行い、1023個のクローンをスクリーニングした結果、15個のターゲットされたクローンを同定した。現在、陽性細胞から薬剤耐性遺伝子を除き、再度ターゲティングベクターを導入することで、プリオン遺伝子がホモで欠損した細胞株の樹立を試みている。
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