精子形成の過程にはアクチン線維・微小管・ミオシンなどの細胞骨格群が関与する。GOPC(ゴルジ装置関連PDZ-コイルドコイルモチーフ含有タンパク質)ノックアウトマウス(GOPC-KO-M)は、頭部が丸く尾部が頭部に巻き付いた異形精子を形成し不妊となる。今回GOPC-KO-Mの精子形成と精巣上体内精子成熟の課程を形態的・細胞化学的に解析した。 正常マウスではGOPCはパキテン期の精母細胞から伸長期の精子細胞のゴルジ装置に局在していた。KO-Mでは先体胞は形成されるが、途中で消失した。またManchette(微小管の縄暖簾状構造物)と同時に数十本の微小管の束(Ectopic manchette)が形成され、核に侵入して深い窪みを残した。 精巣内では尾部は正常に形成され、精巣上体起始部に達した精子の尾部は直線状であった。精巣上体通過に伴って尾部は後輪(頭・尾間の括れ)の欠損部を通過して中片部・主部の順に頭部に入り込み核に巻き付いた。尾部と頭部の結合部はしばしば乖離していた。ミトコンドリア(MT)は一旦MT鞘を形成したが、尾部の巻き込みに伴い、MT相互の接着を保ちつつ粗大線維から遊離して重なり合い、核周辺で重層MT鞘を形成した。その結果、他の中片部ではMT鞘が不足し、粗大線維が露出した。 今回GOPC-KO-Mに見られた異常は次の構造物間の接着力不足に起因すると推測される。⇒以後はその結果起こる形態的異常を示す;1)先体内膜と核膜(βアクチンとケラチンを介する)⇒先体の消失。2)後輪部の細胞膜と核膜⇒尾部の核周辺への巻き付き。3)尾部結合部と核膜の陥凹⇒尾部・頭部間結合の乖離。4)MTと粗大線維⇒重層MT鞘の形成と粗大線維の露出。これらの観察結果は、膜と細胞骨格や膜同士の接着の維持に必要な物質の輸送にGOPCが関与する事を示唆する。
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