研究概要 |
腎臓で尿が生成される過程の第一段階は糸球体濾過障壁を介した選択的濾過であり、この濾過機能が破綻することが難治性慢性腎疾患の一因である。このような腎疾患の病態生理の解明と新しい治療法の確立のためには、信頼できる疾患モデルの樹立が不可欠である。本研究では、新規の疾患モデルの構築のための「糸球体濾過障壁のin vitroにおける再現」を試みた。 糸球体濾過障壁の主要な構成要素は足細胞(糸球体上皮細胞)と糸球体基底膜である。我々はこれまでに、本研究の海外共同研究者らから供与を受けた足細胞の条件的不死化細胞株を用いて、足細胞の形態形成(突起形成、細胞間接着形成)を調節する細胞内シグナル伝達系について研究し、RHOファミリー低分子量G蛋白の関与を明らかにした(Kobayashi N,2002、Kobayashi et al.,2004、Gao et al.,2004、Gao et al.,投稿準備中)。糸球体濾過障壁の一部であるスリット膜は、足細胞の間に形成される非常に特殊な細胞間接着装置であり、スリット膜の異常は蛋白尿と密接に関係している。我々は、薬理学的にRhoAを阻害することでRHOファミリー低分子量G蛋白(RhoA, Rac1,Cdc42)の間の活性のバランスが変化し、その結果として足細胞間の細胞接着装置がより強固になることを明らかにした。これは、必ずしも複合培養系を用いなくても糸球体濾過障壁を培養下で再現できる可能性を示すものである。また、足細胞独自の形態である非常に発達した細胞突起の形成についても、RhoAやその下流で働くキナーゼであるROCKを阻害することにより、培養下でin vivoの形態に類似した突起を誘導することができた。なお、足細胞の形態形成に関する研究に重点を置いたため、計画当初予定していた糸球体内皮細胞の細胞株の樹立は現在も進行中である。
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