神経領域を決定する新規遺伝子Kheperを用いて、この遺伝子の上流・下流にて機能する因子を同定し、神経領域決定のメカニズムを解明するため、以下のようにExpression Cloning実験を行った。 ゼブラフィッシュとマウスの初期胚、および分化初期のマウス胚性幹細胞(ES細胞)からcDNAプラスミドライブラリーを作成し、大腸菌にて200クローンのプールに分割し、各々からプラスミドを抽出、これを鋳型としてRNAを合成しゼブラフィッシュ受精卵にマイクロインジェクションする。インジェクションした受精卵の一部を12時間後に固定しKheperをはじめとする神経系のマーカー遺伝子によりwhole mount in situ hybridizationを行い、神経領域の変化を観察。また残りの一部は翌日まで培養し、形態の変化を観察する。 総数23万クローンをスクリーニングした結果、様々な既知の遺伝子のほかにBcl2ファミリーに属する新しい遺伝子、Wntファミリーの新しい遺伝子、およびFGFファミリーの新規遺伝子(FGFx)をクローニングすることに成功した。FGFxを過剰発現させると、神経領域が拡大する。FGFシグナルを過剰に活性化させると、胚全体が背側化し、神経領域が拡大することが知られている。一方、この遺伝子はゼブラフィッシュのオーガナイザーの形成とともに背側に発現を開始し、頭部神経領域と中胚葉領域にも発現していることがわかった。これらのことから、FGFxは少なくとも頭部において神経領域の決定に関与している可能性がある。 今後は、新しく同定されたこれらの因子が神経領域の決定に直接関与するかどうか、またKheperとの上下関係を明らかにしていく予定である。
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