肝移植後に見られる早期機能不全の原因の一つに虚血再灌流障害の発生が挙げられる。これは血流再開時に急速に供給される酸素がフリーラジカルに変化し、細胞を障害することによる。この際、細胞内Ca^<2+>濃度([Ca^<2+>]i)上昇が障害発生を助長する。本研究では、フリーラジカルによる細胞障害過程(酸化過程)でおきる細胞内へのCa^<2+>動員機構について、ラット単離肝細胞に過酸化水素(H_2O_2)を負荷するモデルを用いて検討し、以下の結果を得た。 1.H_2O_2はラット肝細胞のCa^<2+>流入を誘起し、[Ca^<2+>]iを上昇させた。 2.H_2O_2を投与すると、肝細胞の膜コンダクタンスは急性には変化しなかったが、数分後には徐々に増大した。 3.細胞内からATPを除去すると(無ATP電極内液を使用)、非選択性カチオンチャネルが開口し、細胞膜コンダクタンスは増大した。 4.H_2O_2は肝細胞内のATP濃度を低下させた。 5.H_2O_2はフェニレフリンで誘発されるCa^<2+>振動を促進した。フェニレフリンによるCa^<2+>振動とH_2O_2の効果はいずれもイノシトール3リン酸阻害薬2APBで抑制された。 6.H_2O_2はフォスフォリパーゼCの活性を促進した。 7.H_2O_2による[Ca^<2+>]iの上昇はアミロライドまたはPLC阻害薬U73122で抑制された。 以上の結果から、ラット肝細胞のH_2O_2による細胞内Ca^<2+>動員にはPLC活性の促進、非選択性カチオンチャネルの関与が示唆された。しかし、Ca^<2+>ポンプやCa^<2+>/Na^<2+>交換系の関与も否定できず、その詳細は明確ではない。
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