研究課題
濃度依存性ナトリウムチャネル(Nacと略記、C : concentration)の性質を詳しく調べるために、Nacを多く含んでいる第三脳室上衣細胞(特にタニサイトtanycyteと呼ばれている)の特性を解析した。実験動物は、分子生物学実験に広く使われているC57BL/6Jマウスを使用した。1)脳血液関門とタニサイトマウスの尾静脈または腹腔にトリパンブルーという色素を注入すると、全身臓器は青く染まったが脳と脊髄は染色されなかった。しかし、脳のスライスを作成して詳細に調べたところ、第三脳室壁は染まっていた。よって、タニサイトの存在場所は血液脳関門を欠いているので脳脊髄液Na^+濃度の正確な測定が可能であることが判明した。2)タニサイトの形態タニサイトの性質を解析するために、生きている状態で単離可能であるか、また他の細胞とは異なる形態学的特徴があるかを調べた。トリプシンで単離したタニサイトは細長い細胞体と長い突起が特徴であり、同定可能であることを確認した。3)タニサイトの機能タニサイトの電気生理学的性質を、全細胞記録法(whole-cell recording)で調べた。膜電位依存性のカリウムチャネルは存在しているが、電位依存性ナトリウムチャネル(Navと略記、V : voltage)を欠くことが判明した。一方、周囲に存在する神経細胞はカリウムチャネルとNavの両者を備えていたが、Nacを持ってはいなかった。タニサイト自身は活動電位を発生せず、Na^+濃度を感知する感覚細胞として働いていると考えられる。4)情報伝播様式タニサイトが感知した「Na^+濃度情報」が隣接する他のタニサイトや神経細胞にどのようにして伝達されるかを調べるために、第三脳室を含む脳スライスを作成してNa^+濃度情報伝播様式の画像解析を進めている。
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