研究概要 |
本研究は,尿管の蠕動運動を発生させる腎盂ペースメーカー細胞を探索し,蠕動運動発生のメカニズムと修飾機構を解明する目的で遂行された。Kr-Arレーザー(488nm)共焦点顕微鏡を用いた観察では,摘出ラット腎盂尿管標本の深部まで蛍光色素(Fluo-3)を浸透させ,尿管の自発的蠕動運動に先行する細胞内Ca^<2+>濃度上昇の伝播を,組織のまま可視化することに成功した。さらに組織深部の画像を高分解能で取得する目的で,近赤外パルスレーザー(710nm,40fs,80MHz)によりCalcium Green-1を2光子励起する手法を試みた。その結果,尿管では腎盂ペースメーカーから伝播する興奮に伴うCa^<2+>濃度上昇の合間に,尿管平滑筋細胞自身が独自にCa^<2+>waveを発生していることが判明した。この解析過程では連続した多数の蛍光画像の処理が必要となるため,腎盂から伝播してくるCa^<2+>濃度上昇,および,平滑筋細胞独自のCa^<2+>waveの発生頻度と伝播速度を判別するプログラムを作成し,これらを自動解析する手法を確立した。 興奮に伴うCa^<2+>濃度上昇を遡ることでペースメーカー細胞を捜索したところ,興奮は尿管では平滑筋束に沿って伝播するが腎盂では一方向に伝播するのではなく,平滑筋層内を複数の方向に進む可能性を見いだした。現在,プログラムの改良により多次元的解析を行い,ペースメーカー細胞の同定を進めている。 自動能の発生メカニズムについては薬理学的解析により尿管平滑筋細胞のCa^<2+>wave発生がIP_3依存性であること,ムスカリン様受容体の活性化を介して促進されることが判明した。現在はNANC神経伝達機構に関しNOが関与する可能性を検討中である。 今後はさらなる解析により,ペースメーカー細胞同定と自動能発生メカニズムの全容解明を進めていく予定である。
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