肺動脈において、肺高血圧症や低酸素性収縮においてエンドセリン-1(ET-1)等が主要な役割を担っていると考えられている。そこで、ラット肺細動脈におけるET-1依存性のCa^<2+>流入メカニズムに焦点を当て、平滑筋の細胞内Ca^<2+>濃度([Ca^<2+>]_i)をFura-2蛍光法で測定することにより研究を行った。PLCを抑制するU-73122を投与したところ、ET-1による[Ca^<2+>]_i上昇は抑制された。また、膜透過性のIP_3受容体ブロッカーを投与したところ、同様にET-1による[Ca^<2+>]_i上昇が抑制された。以上のことから、このET-1依存性のCa^<2+>流入はPLCの活性化とIP_3受容体の活性化が何らかの形で関与している可能性が示唆された。ところで、ショウジョウバエ光受容体よりクローニングされた6回膜貫通型TRPC(transient receptor potential channel)蛋白が、受容体刺激により活性化される受容体活性化型Ca^<2+>チャネル本体である可能性が示唆されている。そこで、RT-PCR法を用いて調べたところ、TRPC1、TRPC4、TRPC5、TRPC6及びLTRPC7が発現していることがわかった。TRPCはジアシルグリセロールやIP_3受容体の活性化により開口するという報告がある。今回得られたET-1依存性のCa^<2+>流入に関する結果は、これらTRPCファミリーのそれに近い性質を持つことが解った。さらに、これらTRPCファミリーの中には、細胞内の酸化還元反応により、チャネルの開閉が調整されているものがある。そこで、ミトコンドリアの呼吸阻害薬であるFCCPや、細胞内の酸化還元反応に影響を与えるH_2O_2を投与したところ、顕著な[Ca^<2+>]_i上昇が観察された。この結果は、エネルギー代謝産物、あるいは細胞内環境が[Ca^<2+>]_i調節に関与していることを予測させる。しかしながら、現時点では上記の結果を直接結びつける証拠を得ておらず、今後さらなる検討が必要である。
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