脳外科領域や救急医学領域で注目されている脳低温療法は、脳血管障害や頭部外傷などの脳受傷直後の急性期に体温を低く維持し、回復後の脳障害を軽減するものである。脳低温療法は新生児の分娩時低酸素脳症による脳障害に対する治療法としても注目されているが不明な点が多い。本研究は低酸素低灌流障害の発症メカニズムを動物モデルを用い生理学的手法など用いて解明しようとする。 ・聴性脳幹反応:生後7日目のWistar新生仔ラットをハロセン麻酔の上、顕微鏡下に左総頚動脈を露出結紮し、8%酸素、環境温35℃のチャンパーに1時間収容した。ついで酸素20%の湯浴に浮かせたチャンパーに入れ、直腸温37℃あるいは30℃になるように環境温度を調節した。脳障害の程度は聴性脳幹反応により評価した。小型イヤホンをラット両耳に挿入し、85dBあるいは90d8のパルス音を与え、誘発脳波を測定した。脳障害ラットでは特にIII〜Vのピーク高の減少、ピーク間時間幅の延長がみられ、脳障害の指標に用いることができた。 ・組織学的実験:低酸素低灌流負荷を与え、続いて環境温を調節したラット新生仔を深麻酔下に全脳を摘出し、海馬と大脳半球のスライス標本を作製した。体温を通常温で維持した群で障害側の脳重量の減少の他、免疫組織化学法によりCaspase-3の発現の増加を認めた。 ・光計測法による脳活動の記録:負荷ラットの脳を摘出後、海馬を含む脳スライスを作成し、人工脳脊髄液で灌流した。電位感受性色素で染色の後、電気刺激を加えることにより、脳内の刺激伝導経路とその断絶を光計測法で測定できた。 2年間の検討により、低酸素低灌流新生仔脳障害モデルの確立と聴性脳幹反応による評価系を確立できた。本障害の成立にアポトーシスが関与し、それを評価できる測定系を確立できた。
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