1.ラットを用いた絶食による体温・熱産生の変化 ラットに自由摂食後3日間の絶食を行いテレメトリーシステムを用いて体温、活動量の連続測定、および絶食前、3日目に代謝量(酸素消費量)の連続測定を間接カロリメトリーにより行った。またサーモグラフィーによる体表温の測定を行った。その結果、自由摂食時には体温、行動量、代謝量とも暗期(活動期)に高く、明期(非活動期)に低い概日リズムを示した。絶食により、体温は明期特異的な低下を示したが、代謝量は明期、暗期とも低下し、かつその概日リズムの振幅が小さくなることを確認した。代謝量は熱産生を反映していると考えられ、暗期体温が皮膚よりの放熱量の低下により維持されていることが明らかになった。またこの放熱量の抑制による体温維持機構は明期には発現されないことがわかった。 2.迷走神経切除ラットを用いた絶食による体温、熱産生の変化 腹腔内臓器よりの求心路として重要である迷走神経が、絶食に伴う体温低下に関与しているのではないかという作業仮説をたて実験を行った。実験3週間前に、横隔膜下レベルで迷走神経本幹を外科的に切断し、1と同様の実験を行った。絶食時の体温変化、代謝量の変化とも横隔膜下迷走神経切除ラットと非切除ラットとの間に差は認められなかった。この結果より絶食に伴い変動する液性因子が体温、代謝の低下に強く関わっていると予想した。 3.視交叉上核の破壊 疑問点Cを解決するためにラットの両側視交叉上核の電気破壊を行った後、3日間の絶食を行い体温の連続測定を行った。視交叉上核の破壊により、自由摂食期においても体温、行動の概日リズムはほぼ消失した。また3日間の絶食によっても体温の変動は認められなかった。以上より視交叉上核が絶食時において、能動的に体温を下降させるメカニズムに関与しているという可能性が示唆された。
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