研究概要 |
本研究は、申請者らの「内分泌撹乱物質は,ノン・エストロジェニック作用により特に前頭葉機能に影響し,学習獲得過程を障害する」という仮説を検証するために行った。 まず、ノーザンブロットにより、前頭葉を含めた新皮質、および海馬におけるプロジェステロン受容体mRNA発現に内分泌撹乱物質のひとつであるビスフェノールAが影響を及ぼすか否か確認するとともに、その時間経過を検討した。その結果、興味深いことに前頭葉新皮質のプロジェステロン受容体mRNA発現はビスフェノールA投与6時間後の時点で既に有意に増加し、24時間後の時点でも、発現量は有意に増加していた。エストロジェンもビスフェノールAと同様に前頭葉新皮質のプロジェステロン受容体mRNA発現を有意に増加させたが、その効果は一過性で、24時間後には、もとのレベルまで減少することが明らかとなった。ビスフェノールAは、後頭葉のプロジェステロン受容体mRNA発現には影響を及ぼさなかったが、側頭葉では有意な減少、海馬では有意な増加をそれぞれ惹起した。これらのことから、エストロジェンと異なり、前頭葉新皮質では、内分泌撹乱物質の影響が長期間残存することが、エストロジェン作用との異同であり、また、記憶・学習に関与する海馬に内分泌撹乱物質がなんらかの影響を及ぼすことが明らかとなった。現在、ビスフェノールAが学習や行動にいかなる影響を及ぼすのか検討している。
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