情動ストレス刺激による摂食障害のメカニズム

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 14570068
• 研究機関: 自治医科大学
• 研究代表者: 尾仲 達史 自治医科大学, 医学部, 助教授 (90177254)
• キーワード: オキシトシン / ストレス / ノルアドレナリン / PrRP / 摂食 / 条件恐怖 / オレキシン

研究概要

申請者はこれまで、恐怖刺激或いは侵害刺激を動物に加えると、延髄ノルアドレナリン・ニューロンのうち各々の刺激に固有のニューロンのサブグループ群が活性化されること、その結果、それぞれのストレス刺激に特異的な神経内分泌反応が誘発されること、を明らかにしてきた。ノルアドレナリンにはα1アドレナリン受容体を介する摂食抑制作用とβアドレナリン受容体を介する摂食亢進作用があることが知られている。従って、恐怖刺激或いは痛み刺激を加えると、それぞれ特異的なサブグループのノルアドレナリン・ニューロンが活性化され、その結果、摂食調節ペプチド・ニューロンの活動が特異的に調節され、摂食が修飾される可能性がある。そこで本研究は、まず、情動ストレス刺激の1つである拘束ストレスにより摂食量が減少し、短期間の侵害刺激を加えることによりその日の晩の摂食量が増加するという実験系を確立させた。さらに、短期間の侵害刺激により摂食促進ペプチドであるオレキシンを含有するニューロンが活性化されることを見出した。これに対し、摂食抑制ペプチドであるプロラクチン放出ペプチド(PrRP)を含むノルアドレナリンニューロンが情動ストレス刺激である条件恐怖刺激で活性化されることを見出した。さらに内因性のPrRPを中和抗体で阻害しておくと、夜間の摂食が増加し、さらに、昼間においても一日絶食させた後の再摂食時の食餌量が増加することを見出した。したがって、PrRPは摂食時に活性化されて摂食を抑制していることが考えられた。また、拘束ストレス負荷時による摂食抑制がPrRPを阻害しておくと減弱することを見出した。
以上のデータは、侵害刺激時にはオレキシンニューロンが活性化され摂食が亢進し、情動ストレス負荷時あるいは摂食によりPrRPを含有する延髄のノルアドレナリンニューロンが賦活化され、その結果、神経内分泌反応が誘発され、摂食が抑制されるという可能性が示唆された。

研究成果

• [文献書誌] Onaka T, Ikeda K, Yamashita T, Honda K.: "Facilitative role of endogenous oxytocin in noradrenaline release in the rat supraoptic nucleus"Eur J Neurosci. 18. 3018-3026 (2003)
• [文献書誌] Rokkaku K, Onaka_T, Okada N, Ideno J, Kawakami A, Honda K, Yada T, Ishibashi S.: "Neuromedin U facilitates oxytocin release from the pituitary via β adrenoceptors."Neuroreport. 14. 1997-2000 (2003)
• [文献書誌] Onaka_T, Serino R, Ueta Y.: "Intermittent footshock facilitates dendritic vasopressin release but suppresses vasopressin synthesis within the rat supraoptic nucleus."J Neuroendocrinol. 15. 629-632 (2003)
• [文献書誌] Ikeda K, Onaka_T, Yamakado M, Nakai J, Ishikawa T, Taketo MM, Kawakami K.: "Degeneration of the amygdala/piriform cortex and enhanced fear/anxiety behaviors in sodium pump α2 subunit (Atplα2) deficient mice."J Neurosci. 23. 4667-4676 (2003)
• [文献書誌] Zhu LL, Onaka_T.: "Facilitative role of prolactin-releasing peptide neurons in oxytocin cell activation after conditioned fear stimuli."Neuroscience. 118. 1045-1053 (2003)
• [文献書誌] Onaka T.: "Neural pathways controlling oxytocin release from the pituitary during stress."J Neuroendocrinol. in press.
• [文献書誌] Ueta Y, Ozaki Y, Saito Y, Onaka_T.: "Involvement of novel feeding-related peptides in neuroendocrine response to stress."Exp Biol Med (Maywood). 228. 1168-1174 (2003)
• [文献書誌] Hada T, Onaka_T, Takahashi T, Hiraga A, Yagi K.: "Effects of novelty stress on neuroendocrine activities and running performance in Thoroughbred horses."J Neuroendocrinol. 15. 638-648 (2003)