大脳皮質を賦活する脳内システムとして、視床非特殊核を介した背側経路(古典的な脳幹網様体賦活系)と前脳基底部コリン作動性神経を介した腹側経路が明らかにされ、種々の検討がされてきている。後者に対する入力システムとして、青斑核ノルアドレナリン神経、背側縫線核セロトニン神経、後部視床下部のヒスタミン神経、視床下部外側野のオレキシン神経などが知られている。この研究でとりあげた室傍核は、これらの覚醒関連の神経システムには含まれない。しかし、室傍核を刺激するとあくび行動を伴う皮質の賦活が脳波上で観察される。本研究では、ストレス中枢である室傍核が一過性の覚醒反応を仲介する因子(入力系)と、皮質賦活の経路(出力系)について検討を行った。覚醒を誘発する因子としては、ナルコレプシーとの関連で注目されるオレキシン神経からの入力があること(受容体はオレキシン受容体2)、室傍核の虚血刺激(シアン注入)が有効であることから脳循環不全のチェック機構であること、網膜からの光刺激で覚醒が誘発される中継を担っていること、後部視床下部のヒスタミン神経からの入力をH1受容体を介して受けること、などが明らかになった。室傍核からの出力系としては、CRHニューロンが関与している可能性が強く示唆される結果が得られた(ただし、同時に起こるあくび行動はオキシトシン神経によるものと結論されている)。ただし、CRHニューロンが前脳基底部アセチルコリンに投射して皮質を賦活する可能性は、機能実験でも、組織学的検索でも否定された。おそらくは、脳幹のノルアドレナリン神経を経由した迂回路が関与しているものと推察された。室傍核はストレス中枢として、自律神経、内分泌、情動反応などを発現させるが、皮質に対して一過性の賦活を与え、それは一種の警告反応とみなすことができるかもしれない。
|