研究概要 |
最近、低酸素環境に対する自律神経・循環反応は低酸素に伴う二酸化炭素分圧の変化により違いがあることが明らかにされたので、本研究では二酸化炭素分圧の3条件の10%低酸素状態(Hypocapnic Hypoxia : Hypo, Isocapnic Hypoxia : IsoおよびHypercapnic Hypoxia : Hyper)に暴露したラットのグロムス細胞の肥大と数の増加、血管の新生と拡張のメカニズムを調べた。結果は以下の通りである:1)Wistarラット群を12週に至るまで段階的に低酸素暴露し形態学的・免疫組織化学的に解析した。頸動脈小体は低酸素暴露期間が長くなるに従って徐々に肥大し、暴露期間8週間と12週間ではほぼ同じ大きさになる。このことから頸動脈小体の肥大を指標にした低酸素への順応は少なくとも8週間と考えられる。2)三つの条件(Hypo, IsoおよびHyper)に対する免疫組織化学的な検索では、対照に比べHypo, IsoおよびHyperともSPとCGRPは有意に少なくなり、VIPは増加した。これに対し、NPYはHypoおよびIsoで変化しなかったが、Hyperでは増加した。また、この変化は暴露の経過において一様に増減するかを、Hypoの条件でしらべたら、SPとCGRPは4週目で対照よりいったん増加し、8週目で低下した。またVIPは一様に増加し、NPYは全く変化しなかった。これらの神経線維は主に血管周囲に存在しているので、低酸素環境に対する血管の収縮・拡張に関与すると考えられる。3)各々、片側のみ洞神経の切除、洞神経と交感神経節の切除、および洞神経、交感神経節と迷走神経を切除したラットを慢性的に作成した。8週間のHypo暴露を行い免疫組織化学的にIntact側の頸動脈小体と比較した。その結果、すべての神経切除側で頸動脈小体の肥大の程度は少ないが、その中でも洞神経と交感神経節を切除したラットは最も血管の拡張が著明で、頸動脈小体も比較的大きかった。このことは頸動脈小体の肥大には洞神経が、血管の拡張には迷走神経系が関与すると考えられる。4)低酸素条件の影響を除いて二酸化炭素分圧の高い(6%二酸化炭素)環境で8週間暴露しても頸動脈小体の肥大・血管の拡張は見られなかった。
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