研究概要 |
脊椎動物TRP蛋白質ホモログTRPC6が、血管交感神経刺激時にα_1-アドレナリン受容体を介して活性化されるCa^<2+>流入チャネルの必須の構成分子であるという最近の我々の研究結果に基づき、新しい高血圧治療薬としてのTRP6選択的阻害薬の開発を目指して以下の研究を行った。まず、ハチ毒、クモ毒、海洋生物毒などから得られた既知のペプチド性陽イオンチャネル阻害薬は、すべてTRPC6蛋白質による受容体活性化陽イオン電流(ROCC)に対して全く阻害効果を示さないことが判明した。次に比較的入手の容易な蛇毒から、阻害活性をもつ物質の同定を試みた。Sephadexクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーによって、3種の蛇毒抽出液(T.flavoviridis, B.faciatus, D.ngusticeps)を分画化し、阻害活性検定用のサンプルとし、スクリーニングを繰り返した。その結果、インドアマガサヘビ毒(Bungarus faciatus)から、TRPC3及びTRPC7蛋白質の発現によるROCC電流に対して濃度依存的な阻害活性を示し、TRPC6電流に対しては全く阻害効果のない、推定分子量65,000及び1000以下の小画分が得られた。TRPC3、6、7にはアミノ酸レベルで約80%の相同性があるが、Caイオンやフルフェナム酸に対して異なる感受性を示すことが知られている。そこで、今回のスクリーニングで得られたインドアマガサヘビ毒小分画の阻害作用が発生する部位を、これらの蛋白質のキメラや仮想イオン透過孔付近のアミノ酸変異体を用いた解析によって明らかにする実験を行い、主に、膜貫通領域のアミノ酸配列を介してこれらの効果が発生していることがわかった。現在、最終的に単一ペプチドを精製する実験を進めている。これらの実験から得られる結果は、それと並行して行われたCa/カルモジュリンや機械刺激によるTRPC6の増強効果の責任部位が、同様に一部膜貫通領域を介して生じているという実験の成果と共に、今後、3つのTRP蛋白質の各々に対して選択性の高い阻害薬開発のための重要なデータベースになることが期待される。
|