セリン/スレオニンキナーゼであるapoptosis signal-regulated kinase 1 (ASK1)の心血管病における役割を検討した。アンジオテンシンII注入によるラット心肥大モデルで、ASK1のドミナントネガテイブミュータントを心臓に遺伝子導入しASK1の活性化を阻害するとアンジオテンシンIIによる病的心肥大が抑制され、ASK1が関与していることが証明できた。さらに、ASK1遺伝子欠損マウスと野生型マウスとでアンジオテンシンIIの心臓への効果を比較した。野生型マウスではアンジオテンシンII注入によりJNKとP38の活性化、心肥大、遺伝子発現増加(TGF-b1、ANP、BNP、コラーゲンタイプIおよびIII、PAI-1)、冠状動脈の肥厚と繊維化、間質の繊維化、アポトーシスの増加、心機能低下がみられたが、ASK1遺伝子欠損マウスでは、これらはすべて減弱していた。さらに、バルーン障害によるラットの血管内膜肥厚モデルにおいて、ASK1のドミナントネガティブミュータント遺伝子導入は血管平滑筋細胞の増殖と遊走を抑制し、バルーン障害による血管内膜肥厚を抑制した。また、ASK1の遺伝子欠損マウスを用いて、ASK1の血管リモデリングにおける役割について検討した。カフによる血管外膜刺激による血管内膜肥厚モデルを用いて検討したところ、ASK1遺伝子欠損マウスでは野生型マウスと比べて、血管内膜肥厚は有意に減弱していた。さらに、ASK1遺伝子欠損マウスと野生型マウスから血管平滑筋細胞を単離培養し、性質を比較検討した。血清刺激による平滑筋細胞の増殖と遊走は、野生型マウスと比較してASK1遺伝子欠損マウスでは有意に減弱していた。以上から、ASK1は心血管病の分子機序に重要であり、心血管病のターゲットとして有用と考えられる。
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