細胞内カルシウムイオン(Ca2+)シグナルは、広範な細胞機能に関与する重要な細胞内情報伝達物質の一つで、局所的に点在するCa2+スパークから細胞全体に渡るCa2+ウェーブやオシレーションに至るまで多彩なパターンが存在して、それに続く細胞応答が各々のパターンに従って異なることも明らかにされつつある。我々は、細胞内Ca2+動態を担う実態であるCa2+放出チャンネルの一つであるリアノジン受容体(RyR)の機能的な役割を生きた細胞レベルで検索するために、このCa2+放出機能を特異的に阻害する優性阻害的「ドミナント・ネガティブ」サブユニットを発現させることによる新しいCa2+放出チャンネルの機能的阻害法の開発を試みてきている。実験は、改良により小さな「カセット(ほぼ等間隔で約1500塩基対)」からなる構造としたRyRcDNAを利用して、4032番目のグルタミン酸をアラニンに変異させたRyRをコードするcDNA(E4032A)とし、さらに緑色蛍光蛋白質(GFP)をコードするcDNAをインフレームに挿入してGFP融合E4032ARyRをコードするcDNAを作製した。これらRyRcDNAを哺乳類用発現ベクターに乗せてチャイニーズハムスター卵巣由来の培養細胞に遺伝子導入・強制発現させたところ、核を除く細胞質に点在するGFP蛍光が観察され、野生型RyRとほぼ同様の細胞内分布が示されていた。さらに同様の遺伝子導入した細胞での細胞内Ca2+動態の変化を、Ca2+蛍光指示薬(fura2)を負荷して顕微測光法を行って解析したところ、RyRの「Ca2+によるCa2+放出(CICR)機構」の促進薬であるカフェインに対する感受性が、E4032Aでは、著しく低下もしくは欠損していた。したがって、このE4032Aが優性阻害的「ドミナント・ネガティブ」サブユニットになり得る可能性が示唆された。
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