本研究では虚血性急性腎不全モデルに選択的Rho-kinase阻害薬であるY-27632を投与し、腎虚血再灌流障害に対する保護効果について検討を行った。また、本病態発症・進展の一因とされている好中球の関与についても合わせて検討した。SD系雄性ラットの右腎摘除2週間後、麻酔下で左腎動静脈の血流を45分間遮断した。再灌流24時間後に5時間尿を採取、採血および腎摘出を行った。腎機能は、血中尿素窒素(BUN)、血漿クレアチニン(Pcr)、クレアチニンクリアランス(Ccr)、尿量(UF)、尿浸透圧(Uosm)並びに尿中Na^+排泄率(FE_<Na>)により評価した。得られた腎臓から、病理組織学的検討並びに腎組織中のmyeloperoxidase(MPO)活性の測定を行った。薬物は虚血5分前(前処置)あるいは、再灌流5分後(後処置)に腹腔内投与し、対照群のラットには溶媒を投与した。なお、片腎摘出のみを行った動物をsham群とし、腎機能パラメーターに及ぼす影響について検討を行った。 対照群ではsham群と比較して有意なBUN、Pcr、UF並びにFE_<Na>の増加、Ccr、Uosmの低下と腎髄.質外層外帯における尿細管壊死、髄質外層内帯における欝血出血および髄質内層における蛋白円柱などの障害像が認められた。対照群において認められた腎機能の低下および腎組織障害は、Y-27632(1-100μg/kg)の前処置により投与量依存的に改善された。また、Y-27632を100μg/kgの用量で後処置した場合にも、対照群で認められた腎機能の低下および腎組織障害は有意に改善された。本病態において腎組織中のMPO活性は再灌流6時間後で最大値を示したが、再灌流24時間後にはsham群と同程度まで減少した。Y-27632(10-100μg/kg)の前処置により、再灌6時間後のMPO活性は用量依存的に抑制され、高用量処置においてその抑制は顕著なものであった。 以上の結果より、Y-27632は腎虚血再灌流による腎機能ならびに腎組織障害に対して改善効果を示すことが明らかとなった。さらに、この改善効果のメカニズムの一つとして、Rho-Rock経路を抑制することにより、好中球浸潤による組織障害を軽減している可能性が示唆された。
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