(1):虚血性急性腎不全モデルに選択的Rhoキナーゼ阻害薬であるY-27632を投与し、腎虚血再灌流障害に対する保護効果について検討を行ったところ、本薬物は腎虚血再灌流による腎機能低下並びに腎組織障害に対して顕著な改善効果を示すことが明らかとなった。またこの改善効果のメカニズムとして、Rho-Rock経路を抑制することにより、好中球浸潤による組織障害を軽減している可能性が示唆された。 (2):Na^+/Ca^<2+>交換体(NCX)の腎虚血再灌流障害における病態生理学的役割を明確にする目的で、まず腎虚血再灌流障害に対する新規選択的NCX阻害薬SEA0400の効果について検討を行ったところ、本薬物は腎虚血再灌流障害を改善することが示された。次に、NCX遺伝子欠損マウスヘテロ接合体を用いて同様の腎虚血再灌流実験を行い、野生型における場合と比較した。その結果、ヘテロ接合体においては虚血再灌流後の腎機能低下は野生型に比して、明らかに弱いものであった。また、虚血再灌流による腎組織障害並びに腎エンドセリン含量の増大についても、ヘテロ接合体では軽度であった。このように、腎虚血再灌流障害においてNCXが重要な役割を果たしていることが明らかとなり、NCXを介するCa^<2+>オーバーロードに引き続く腎エンドセリン産生の亢進が虚血性急性腎不全の障害発症・進展に密接に関与するものと考えられた。また、新規NCX阻害薬SEA0400は本病態に対して明らかな改善効果を示したことから、その臨床的有用性が期待される。 (3):腎虚血再灌流障害と酸化ストレスとの関係について、NOドナーを用いることにより検討を加えた。外因性のNOは腎虚血再灌流障害の発症過程には防御的に作用するのに対し、進展過程では増悪因子として作用する可能性が示唆された。防御的に作用する場合には、抗酸化作用やエンドセリン産生抑制作用が関与し、一方増悪因子として働く場合には、ONOO^-産生亢進が関係するものと考えられた。このようにNOは腎虚血再灌流障害に対して改善/増悪という相反する効果を示すことが明らかとなった。
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