【目的】 一酸化窒素(NO)合成酵素には、内皮型(eNOS)・誘導型(iNOS)・神経型(nNOS)の3種類のアイソフォームが存在する。eNOSやiNOSが動脈硬化において重要な役割を果たすことは広く知られているが、nNOSの役割は不明である。申請者は、nNOSも血管病変に発現し抗動脈硬化因子として機能することを初めて報告した。本研究では、nNOSの血管壁遺伝子発現調節機構を解明することを目的とした。 【方法と結果】 1.マウス頚動脈結紮モデル及びラットバルーン傷害モデルにおいて、傷害後の血管壁細胞にnNOS蛋白の発現が認められた。 2.ラット大動脈平滑筋培養細胞において、アンジオテンシンII及びインターロイキン-1βは、nNOS mRNA及び蛋白の発現を有意に増加させた。この増加は、Nuclear factor-κB(NF-κB)阻害薬によって有意に抑制された。 3.血小板由来増殖因子(PDGF)も、同細胞のnNOS mRNA及び蛋白レベルを有意に増加させた。この増加は、Mitogen-activated protein(MAP)kinase kinase(MEK)阻害薬、並びにMEK dominant-negative変異体の遺伝子導入によって有意に抑制された。 【総括】 我々は、本研究において、(1)nNOSが傷害後の血管病変に誘導されること、(2)その機序にはアンジオテンシンII、インターロイキン-1β、PDGFなどの炎症性/増殖性刺激が関与していること、(3)さらにNF-κBやMAPKを介したシグナル伝達経路が血管壁nNOS発現において重要であることを明らかにした。本研究は、「神経系では恒常的に発現するnNOSが、血管系では発現調節を受けている」ことを初めて見出し、血管壁細胞におけるnNOSの発現調節機構を詳細に解明した点で学術的に意義があると考えられた。
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