研究概要 |
スフィンゴシン-1-リン酸(SPP)は血漿中に存在する生理活性リゾリン脂質であり、EDGファミリーG蛋白共役型SPP受容体を介して作用することを我々をはじめ国内外の複数の研究室が明らかにして来た。我々は哺乳動物細胞異所性強発現系を用いた一連の検討により、SPP受容体のうちEDG1,3,5の3つのアイソフォームについて、それぞれ独自の三量体G蛋白共役、低分子量G蛋白活性制御を行うことを見い出している。特に注目すべきSPP受容体各アイソフォームの生物活性の差異として我々は、EDG1および3はSPP刺激により低分子量G蛋白Racの活性化を引き起こし細胞運動を促進するのに対し、EDG5はこれとは全く逆に、Racを抑制して細胞運動を完全に抑制することを見い出している。本研究では、(1)培養細胞強発現系で観察された上記Rac・細胞運動のSPP受容体アイソフォーム特異的2方向性制御作用の生物個体における意義を検討した。B16マウスメラノーマ細胞はSPP受容体のうちEDG5のみを選択的に発現している。B16細胞においてSPPは内因性に発現するEDG5を介して細胞運動・浸潤をin vitroで抑制し、in vivoにおいて尾静脈注入モデルを用いた肺転移を濃度依存性に抑制した。SPPの抑制効果はEDG5を強発現させたB16細胞では増強すること、一方逆に、EDG1 EDG3強発現B16細胞では減弱し、さらに後者では低濃度のSPPはむしろ細胞運動・浸潤・肺転移のいずれをも促進することを見い出した。これはG蛋白共役型受容体がin vivoにおいてアイソフォーム特異的、リガンド依存性に腫瘍の転移を正・負両方向に制御しうることを意味し、悪性腫瘍に対する新たな治療方法の開発の可能性を示唆する。(2)EDG5ノックアウト(KO)マウスを作出した。EDG5KOマウスはメンデル則に従って出生するがやや小さく、離乳期までに雌雄とも約半数が死亡する。現在死因を究明中である。離乳期をすぎて生存したEDG5KOマウスは18ヶ月以上生存する。これまでの観察からEDG5の血圧調節における生理的意義が示唆され、さらに検討中である。(3)スフィンゴシン・キナーゼトランスジェニックマウスを作出した。
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