様々な組織に広汎に発現するS1P受容体アイソフォーム、S1P_1、S1P_2、S1P_3について、CHO細胞強発現系を樹立し、各々の生物活性の顕著なアイソフォーム特異性とその分子基盤を明らかにして来た。特に、S1P_1、S1P_3は低分子量G蛋白Racの活性化を介し、S1Pに対する化学遊走受容体として機能するのに対し、S1P_2はこれらとは対照的に、Rho活性化を介してRacを抑制し、細胞遊走を抑制する最初のG蛋白共役型受容体であることを世界に先駆けて明らかにした。S1P_2のみを選択的に発現しているB16マウスメラノーマ細胞において、S1Pは内因性に発現するS1P_2を介して細胞運動・浸潤をin vitroで抑制し、in vivoにおいて尾静脈注入モデルを用いた肺転移を濃度依存性に抑制した。S1Pの抑制効果はS1P_2を強発現させたB16細胞では増強すること、一方逆に、S1P_1、S1P_3強発現B16細胞では減弱し、さらに後者では低濃度のS1Pはむしろ細胞運動・浸潤・肺転移のいずれをも促進することを見い出した。これはG蛋白共役型受容体がin vivoにおいてアイソフォーム特異的、リガンド依存性に腫瘍の転移を正・負両方向に制御しうることを意味し、悪性腫瘍に対する新たな治療方法の開発の可能性を示唆する。S1P_2ノックアウト(KO)マウスを作出し、解析した結果、雌雄のホモ欠損個体に(1)無麻酔下安静時基礎血圧の低値(2)離乳期までに高率な死亡(3)パンチバイオプシー後皮膚創傷治癒の促進などの所見を見い出した。また、これと平行して作出したS1P産生酵素スフィンゴシン キナーゼ(SK)トランスジェニック(Tg)マウスでは、加齢に伴う顕著な心筋リモデリング(心肥大および心筋線維化)ならびに腎糸球体障害の出現を見い出している。
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