研究課題
蛋白質としてヘモグロビン(Hb)を選び、その高次構造変化と酸素結合機能との相関について研究し、下記の実験結果を得て3つの論文にまとめ、2つは受理されて印刷の運びに、残りの1つは投稿中である。DeoxyHbでのみ出現する287nmの負のCDバンドは"T型マーカーバンド"とよばれ、サブユニット間水素結合に関与するα42Tyrまたはβ37Trpによると示唆されてきた。そこで本研究ではα42TyrをSerに、β37TrpをHisに置換した変異体を遺伝子工学的に合成し、CDスペクトルを調べた。しかし、それらのアミノ酸の負のCDに対する寄与は小さかった。そこで酸素解離にともなって大きく構造が変化するとされるC末付近のTyrの可能性を考えその部分の変異体を合成した。その変異体では負のCDバンドが明らか小さくなったことから、α140Tyrおよびβ145TyrがそのCD帯の変化の主体であることを明らかにした、(Biopolymers)。ヘム近傍に変異を有しヘムが酸化型で安定化している異常Hb(HbM)はα鎖異常に2種類、β鎖異常に3種類知られている。α鎖異常HbMでは異常鎖は還元しにくく、正常β鎖の酸素親和性は非常に低い。一方、β鎖異常HbMでは異常鎖の還元は容易で、正常α鎖の酸素親和性は正常である。これらの相違がヘムの状態変化にあるのではないかと考え、ヘムの構造に敏感な共鳴ラマン分光で調べた。その結果、α鎖異常HbMの異常鎖ヘムのポルフィリン骨格に歪みがみられヘムの側鎖にも大きな変化を与えていることが判明した。β鎖異常HbMではそのような変化はみられなかった(Biochemistry)。ヘモグロビンのアリステリックエフェクターとして知られるIHP(inositolhexaphosphate)やBZF(bizafibrate)が酸素親和性を下げるのはその高次構造に変化を与える結果と考え、それらのエフェクターの有無による構造変化を紫外共鳴ラマン分光とNMR及びピコセガンド共鳴ラマン分光によるダイナミックスで調べた。その結果その構造変化に与える影響は酸素等のリガンドが2〜3個結合した時に著しいことが判明した(投稿中)。
すべて 2004
すべて 雑誌論文 (2件)
Biopolymers 74
ページ: 60-63
Biochemistry 43(26)
ページ: 8517-8527