Id2遺伝子の破壊マウスにおいて、血清中のIgE量が著増することを見いだした。本研究によってこの現象の主な分子基盤として、Bリンパ球におけるε鎖へのクラススイッチ組換えが著明に亢進していること、この組換えが転写因子E2Aによって活性化されるε鎖非組換え型転写に依存していること、正常Bリンパ球ではTGF-β1の信号を受けてId2の発現が誘導され、これがE2Aの作用を阻害することによってε鎖非組換え型転写を抑制する結果、ε鎖へのクラススイッチ組換えが特異的にきわめて低く抑えられていることなどが明らかにされた。 さらに、同じId2遺伝子の破壊マウスにおいて、Bリンパ球におけるクラススイッチ組換えと体細胞突然変異に必須の因子である、AIDの遺伝子転写活性も著増していることを見いだした。Id2遺伝子を過剰発現するとクラススイッチ組換えが抑制されることが知られていたが、本研究で、この抑制はId2がAID遺伝子の転写を抑制する結果であることを証明し、この分子基盤として、AIDの遺伝子転写が転写因子Pax5に依存していること、Id2がPax5の活性に拮抗して働いていることなどによるものであることを、特異的発現に必要十分な制御配列の同定とその詳細な解析によって明らかにした。以上のように、E2A、Pax5などのような転写活性化因子群とId2をはじめとする転写抑制因子群の活性バランスがリンパ球の機能発現においてきわめて大きな意味を持っていると考えられた。これはリンパ球の活性化制御を理解する上で重要な知見である。 一方、Id2遺伝子の破壊マウスではAIDの遺伝子発現量が著増しているにもかかわらず、体細胞突然変異率においては正常マウスと差が認められなかった。この事実はAIDがクラススイッチ組換えと体細胞突然変異に必須の因子であるが、これとは別の安全維持機構があり、これによってAIDの量だけで組換えや変異の量が制御されているのではないことを意味している。
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