研究概要 |
我々は、成人発症II型シトルリン血症(CTLN2)責任遺伝子(SLC25A13)の転写産物であるcitrinが、ミトコンドリア内膜に局在するアスパラギン酸グルタミン酸キャリアー(AGC)であることを明らかにしたが、CTLN2の発症機構については不明な点が残されている。CTLN2症例で同定した変異を基に作製した変異citrinタンパク質をヒト肝細胞株に導入したところ、ミトコンドリアの断片化が認められた。本研究の目的は、このミトコンドリアの断片化が細胞死を誘導するか否かを明らかにし、正常citrinタンパク質の生理的機能を明確にすることである。本研究期間に得られた研究成果を列挙する。 1.変異citrihタンパク質の細胞内局在性とAGC活性を検討した結果、6回のミトコンドリア膜貫通モチーフを完全に有するがC-末膜外部に異常のあるもの([VI],[VII],[VIII] and [IX])では、ミトコンドリアと細胞質の両方に分布が見られたが、正常citrinの60%程度の活性を示す[VII]とAGC活性のない[VIII]・[IX]とに分けられた。その他の変異では、AGC活性を消失していた。これらの結果から、C-末膜外部の長さ(4アミノ酸)が活性に必要であり、特に601番目のGlu(E)が必須であることが示唆された。 2.ミトコンドリアの断片化が認められる変異citrin導入細胞で、抗チトクロームC抗体による細胞免疫染色を行ったが、チトクロームCのミトコンドリアから細胞質への漏出は明確にできなかった。Citrin欠損症は、新生児期に胆汁うっ滞性乳児肝炎(NICCD)を引き起こし、1歳以降見かけ上健康な時期を過ごし、成人期にCTLN2を発症する。血中チトクロームCは、多くのNICCD症例で高値を示し、見かけ上健康な時期では低く、CTLN2症例ではバラツキが大きかった。高値を示すヘテロ接合体が存在するため、さらなる検討が必要である。 3.Northern blot、Western blot、AGC活性測定、肝潅流実験などでは、citrin欠損状態であることを確認しているが、citrin-KOマウスはまだヒト症状を呈していない。また、初代培養肝実質細胞をアミノ酸制限培地で培養した結果、citrin-KOマウスと正常マウスの間で、タンパク質合成能に差は認められなかった。
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