研究概要 |
ポリアミン類の生体内における代謝は細胞増殖に関連して活性化され、その結果として尿中に排泄されるアセチルポリアミンの量が増加することが知られている。ジアセチルスペルミン(DiAcSpm)およびジアセチルスペルミジン(DiAcSpd)は健常者の尿中にはごく少量排泄される微量ポリアミン成分であるが、悪性腫瘍患者の尿中ではその排泄量が著明に増大することが見出されている。我々はさらに、これらが悪性腫瘍の病勢を示す指標として優れた特性を示すことを示唆する結果を得た。本研究はこの知見をさらに拡張し、ジアセチルポリアミンの腫瘍マーカーとしての臨床的有用性を明らかにすることを目的としている。本年度は、大腸癌の症例を中心に尿中DiAcSpm値を測定し、その陽性率について検討した。東京都立駒込病院で治療を受けた大腸癌患者292名中、DiAcSpm, CEA, CA19-9の陽性率はそれぞれ72.9%,37.7%,15.4%であった。このことはDiAcSpmの大腸癌に対する検出性能が既存のマーカーと比較して格段に高く、腫瘍マーカーとして臨床的に高い有用性をもつことを示している。また、手術前のDiAcSpmレベルが基準値(健常者平均値+2SD)の3倍未満の患者群と比較して、基準値の3倍を超える高値を示す患者群の予後は有意に不良であった。DiAcSpmは大腸がんの病勢を示す新たなマーカーとして有用であると考えられる。我々はまた、ジアセチルポリアミンの新しい測定法についても研究を進め、DiAcSpmに高い特異性を示す単クローン抗体を作成し、さらに、妨害ポリアミン成分(N1-およびN8-アセチルスペルミジン)の特異的分解によって妨害を回避した酵素免疫法による簡便な測定系を開発したほか、組織中のDiAcSpm含量を正確に測定する目的で、質量分析法によるDiAcSpmの測定法を開発することに成功した。
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