研究概要 |
ジアセチルスペルミン(DiAcSpm)は健常者の尿中においてはごく少量しか排泄されないが、悪性腫瘍患者の尿中ではその排泄量が著明に増大する。本研究においては、ジアセチルポリアミンの腫瘍マーカーとしての臨床的有用性を明らかにすることを目的として、都立駒込病院外科で診療を受けた大腸がん患者および乳がん患者を対象として酵素免疫測定法(ELISA)による尿中DiAcSpmの測定を行った。健常者52名の平均値+2SD(0.15+0.10μmol/g creatinine)を基準値とした場合、248例の大腸がん患者の治療前陽性率は76%であった。一方、同一患者群について、CEA(基準値:5.0ng/ml)、CA19-9(基準値:37U/ml)の陽性率はそれぞれ40%,14%であった。さらに、患者を病期別に分類(stage 0,20例;stage I,40例;stage II,60例;stage III,107例;stage IV,21例)し、尿中DiAcSpmの陽性率を比較した。病期の進行とともに陽性率は上昇したが、特に、尿中DiAcSpmが粘膜がん(stage 0)や比較的早期のがん(stage I)で約60%の高い陽性率を示す点が注目された。同一患者群について、CEA、CA19-9の陽性率はそれぞれ10%,5%であった。また、DiAcSpmが一定期間以上高値を示す患者群の予後は不良であり、DiAcSpmは大腸がんの病勢を示すマーカーとしても有用であることが示唆された。乳がん患者83例については、尿中DiAcSpm、血清CEA、血清CA15-3(基準値23U/ml)の陽性率はそれぞれ60%,37%,37%であり、DiAcSpmの陽性率は有意に高かった。また、乳がんにおいても尿中DiAcSpmは比較的早期(stage IおよびII)のがんで他のマーカーよりも高い陽性率を示した。尿検査の無侵襲性、および、ポリアミンの汎用腫瘍マーカー性という二つの特徴を考慮すると、尿中ジアセチルスペルミン検査はがんのスクリーニングに利用できる可能性が高いと考えられる。
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