私達はATF-2遺伝子のノックアウトマウスを作製してその生理的な役を調べて来たが、ヘテロ欠損の雌マウスを一年以上飼育すると高頻度(18例/31匹)で乳癌を引き起こすことが分かった。病理切片を作製してこれらの乳癌を観察すると、結合組織の発達したスキルス硬癌と扁平上皮癌が多く見られた。そこでヒトの乳癌の発症とATF-2の関連を見るために、乳癌患者から採取した腫瘍組織を用いて正常部分と病変部からRNAをそれぞれ抽出してATF-2の発現レベルをリアルタイムRT-PCR法で比較した。その結果ヒトに於いてもスキルス硬癌等で正常部分と比較して病変部ではATF-2の発現が3分の1以下に低下しており、ATF-2の発現低下と乳癌発症の相関が認められた。 次に発症メカニズムを探るために低酸素ストレスを与えてアポトーシス誘導を行うと、ATF-2ホモ欠損細胞は野生型細胞よりも耐性を示すことが明らかに成った。そこで、DNAチップを用いて発現している遺伝子を野生型とATF-2欠損細胞で比較した。その結果Gadd45α遺伝子の低酸素ストレスによる発現誘導が変異細胞では著しく低下していることが明らかになった。実際Gadd45α遺伝子の発現をマウス正常乳腺と乳癌組織で比較すると、正常乳腺では発現が見られたが、調べた全ての乳癌サンプルで発現がほとんど見られなかった。Gadd45αはアポトーシスを誘導することが知られているので、ATF-2の発現レベルが低下するとアポトーシスを回避することが出来るので細胞は増殖を続け発癌へと至ると考えられる。 コトランスフェクションによるレポーターアッセイでATF-2はBRCA1やOct1と複合体を形成してOct1結合部位を介してGadd45α遺伝子のプロモーターを活性化している事が分かった。
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