抗リン脂質抗体症候群(APS)は、自己抗体による易血栓性が基本病態の自己免疫疾患である。これまでに本疾患で出現するIgG抗β2-グリコプロテインI(β2GPI)自己抗体と酸化LDL・β2GPI複合体との免疫複合体がマクロファージに取り込まれ、泡沫化が起こることを示してきた。本研究期間中に、酸化LDLとβ2GPIとの間の相互作用について解析するとともに、β2GPIに特異的な酸化LDL由来の酸化脂質リガンドを単離・同定した。また、APS患者末梢血リンパ球より樹立したβ2GPI特異的T細胞クローンと健常人由来の樹状細胞やマクロファージを用いて、β2GPIに対する抗原提示について解析をした。さらに、APS由来のIgG抗β2GPI自己抗体および動脈硬化由来のIgM抗酸化LDL自然抗体のマクロファージによる酸化LDLの取り込みに及ぼす影響について解析した。 抗原提示活性は、抗原であるβ2GPI単独の添加では現れず、β2GPIと酸化LDL由来のβ2GPIリガンド含有リポソーム、ウシ脳由来のPS含有リポソームなどとβ2GPIとの複合体としてのみ有意に認められた。抗原提示を誘導するリポソームの何れもがβ2GPIに対する親和性を有する酸性脂質を含有していたが、抗原提示活性と細胞内β2GPI取り込み量との間には必ずしも相関がなく、むしろ、抗原提示は、β2GPI結合脂質独自の輸送経路によって決定づけられることが示唆された。IgG抗β2GPI自己抗体が酸化LDLの取り込みを促進する一方、動脈硬化の発症に伴って現れるIgM抗酸化LDL自然抗体は、取り込みを有意に阻害した。このように、マクロファージによる酸化LDLおよびβ2GPIの取り込みは、酸化LDLおよびβ2GPIの両者の相互作用により起こる。また、取り込んだマクロファージは脂質代謝を営むと同時に、抗原提示細胞としての役割を有するが、どのように自然免疫あるいは自己免疫を誘導するのか今後詳細な解析が必要である。
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