研究課題/領域番号 |
14570122
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
後藤 信治 長崎大学, 大学院・医歯薬学総合研究科, 助手 (50186889)
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研究分担者 |
近藤 宇史 長崎大学, 大学院・医歯薬学総合研究科, 教授 (00158908)
井原 義人 長崎大学, 大学院・医歯薬学総合研究科, 助教授 (70263241)
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キーワード | glutathione S-transferaseπ / drug resistance / nuclear translocation / cisplatin / doxorubicin / cancer |
研究概要 |
1.研究目的 申請者らは、細胞質ばかりでなく核内にもグルタチオンS-トランスフェラーゼπ(GSTπ)が存在する大腸癌由来の培養細胞が、アポトーシス抵抗性を示すことを観察した。アポトーシス抵抗性を示すこの細胞において、マッシュルームレクチン(ABL)を投与することでGSTπの核移行を阻害すると、抗がん剤によりアポトーシスが誘導されることを見出した。この研究成果から、核内GSTπが、がん細胞の薬剤感受性を低下させていることが示唆されたので、核GSTπをがん治療の新たな分子標的とするための基礎研究を行うこととし、GSTπの核移行阻害により、薬剤感受性が増加する抗がん剤は何か、大腸癌由来の細胞以外にも薬剤感受性が増加する細胞が存在するかどうかを明らかにすること、及びGSTπの核移行機構を明らかにすることを具体的な到達目標とした。 2.研究経過 アポトーシス抵抗性を示す複数の培養がん細胞を用い、GSTπの核移行をABLで阻害した上で、種々の抗がん剤に対する薬剤感受性に関して検討した。また、GSTπには既知の核移行シグナルは認められず、その核移行の分子機構は全く不明である為、まず、核移行に必須なGSTπの領域を明らかにすることを目的に、緑色蛍光タンパク質(GFP)との融合タンパク質を発現させてその細胞内局在を解析した。 3.研究成果 核GSTπの存在が認められる複数のがん細胞(大腸癌、肺腺癌、神経膠芽細胞腫由来)にABLを投与しGSTπの核蓄積を阻害すると、全ての細胞でシスプラチンやドキソルビシンに対する薬剤感受性が著しく増加し、アポトーシスが誘導されることを見出した(Jpn.J.Cancer Res.,2002)。また、臨床検体の免疫組織化学的検討により、核内にGSTπが存在する卵巣癌、子宮体癌、子宮頸癌患者は、細胞質にのみ存在する患者より、予後が不良であること、抗がん剤治療後、核GSTπが陰性から陽性に転化する症例でも、予後が不良であることを見出した(投稿中)。核移行に関しては、GSTπのN末端からC末端にかけての複数の断片とGFPの融合タンパク質を発現させ、その細胞内局在を解析した。その結果、GSTπの核移行にはC末端領域が重要であることが明らかとなった。加えて、我々は、タンパク質の核での存在を解析する場合、核移行と同様に核外移行機構に関する検討も必須であると考えた。そこで、核内にGSTπの存在が認められない細胞に、タンパク質の核外移行を阻害するleptomycin Bを投与し、GSTπの細胞内局在の変化を観察した。leptomycin Bを投与すると、GSTπは、2時間から3時間内に核蓄積を起こした。このことは、核内にGSTπの存在が認められないがん細胞でもGSTπは常時核移行していること、移行後、直ちにexportinと結合して速やかに細胞質に移行している為、核での存在が観察されないことを示唆した。また、興味深いことに、分離ミトコンドリアを解析した結果、GSTπの存在が確認された。GSTπの断片とGFPの融合タンパク質の細胞内局在を解析した結果、GSTπのN末端領域がミトコンドリアへの移行に必須であることが明らかとなった。当初、GSTπの核移行を阻害する目的で使用していたABLは、GSTπの核移行ばかりでなく、ミトコンドリアへの移行も阻害することが判明した。
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