Rhesは脳に発現するRasファミリー低分子量GTP結合蛋白質であるが、線条体に特に多く発現するためRas homolog enriched in striatumと命名された。Rasファミリー分子は、エフェクター分子と結合して細胞内機能を遂行するが、Rhesの特徴として、エフェクター結合領域の8番目にフェニルアラニンを持つことが挙げられる。同じ特徴を持つRasファミリー分子に、脳でも発現しているRap2がある。両者の神経細胞における機能は不明である。両者は共通のエフェクター分子と結合して神経細胞で類似の機能を遂行する可能性があると考え、RhesとRap2に結合するエフェクター候補分子をTwo-Hybrid法とアフイニティークロマトグラフィー法を用いて検索した。その結果、RhesとRap2に結合する分子は異なっており、Rhesに結合する分子としてはARMS、BAI3、PP2AB56を、Rap2に結合する分子としてはMAP4K4、TNIK、MINKを得た。個々の結合の生理的意義について解析を進めている。この中で最近、Rap2とMAP4K4の結合について生理的意義を示唆する知見が得られた。MAP4K4はストレス応答性MAPキナーゼJNKを制御するキナーゼであり、ショウジョウバエや線虫では神経軸索誘導にも関与する。Rap2はMAP4K4と結合して細胞内で共局在し、MAP4K4によるJNKの活性化を促進した。この結果から、MAP4K4はRap2のエフェクター分子であると考えられ、哺乳動物神経細胞におけるRap2とMAP4K4の機能の解明が待たれる。一方、MAP4K4がRhesと結合しない理由として、MAP4K4との結合にはエフェクター結合領域以外の領域も重要な役割を演じている可能性が考えられた。
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