研究概要 |
我々はマウス乳癌に浸潤能を必要としない転移経路(invasion-independent pathway)があることを見いだした。本研究ではこの新しい転移の分子メカニズムの解析とヒト癌への応用の検討を行った。 1)Invasion-independent pathwayに関わる分子の同定:マウス乳癌よりinvasion-independent pathwayを介する高転移細胞株(MCH66)とその非転移性クローン(MCH66C8)、高浸潤能を背景に転移する細胞株(MCH416)を樹立した。MCH66は他の2つに比し、高度の類洞状血管網を形成し、血管新生活性が高かった。mRNAの発現解析ではPleiotrophin(PTN)やSecretory leukocyte protease inhibitor(SLPI)、細胞外基質関連遺伝子などがMCH66に高発現する遺伝子としてクローニングされた(Am. J. Pathol. 160,1973-1980,2002)。これらの遺伝子をトランスフェクション法により強制発現させた結果,SLPI, PTNがMCH66C8にinvasion-independent metastasisを誘導した(投稿準備中)。 2)ヒト癌におけるinvasion-independent pathwayの存在:10種類の臓器に発生した癌の手術標本から高度の血管侵襲を示す症例を選抜した。腎細胞癌、肝細胞癌、甲状腺濾胞癌の多くと他の全7臓器の癌の一部において、静脈内の腫瘍に血管内皮による被覆が確認された。また、この内皮の被覆は腫瘍内の類洞状血管網の発達と有意に相関し、invasion-independent pathwayの存在を示していた(投稿中)。 今後、SLPIやPTNを分子標的としてヒト癌のinvasion-independent metastasisの制御を試みる予定である。
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