研究概要 |
我々がマウス乳癌モデルを用いて提唱した新しい転移様式(invasion-independent pathway)のメカニズム解明とヒト癌への応用を目的として、以下の研究を行い、成果を得た。 1.マウス乳癌高転移性細胞株(MCH66)がその非転移性クローン(MCH66C8)に比して高発現する遺伝子群のうち、5つの遺伝子をMCH66C8に導入し、stable transfectantsを得た。Transfectantsを同系マウスの乳腺内に同所移植し、自然転移能をアッセイした。肺への転移はSecretory leukocyteprotease inhibitor (SLPI):12/20,Lipopolisaccharide-binding protein (LPS):2/3,Pleiotrophin(PTN):1/10,Cellular retinol-binding protein-1 (CRBP):0/3,Fibulin-5:0/4であった。特にSLPIの高発現株(C8-SLPI)の移植腫瘍にはcontrol vectorの導入細胞にみられなかった類洞様血管が発達し、invasion-independent pathwayを介する転移が誘導されたことを示している。SLPIはinvasion-independent metastasisを誘導する候補遺伝子として有力であることが示された。 2.上記のようにマウス転移モデルシステムで解明されつつあるinvasion-independent pathwayの分子機構をヒト癌に応用するために、この転移様式がヒト癌にも存在するか否かを臨床病理学的に検討した。福島医大で手術的に摘出された主要10臓器の癌の血管侵襲像を顕微鏡的に観察した。肝細胞癌、腎細胞癌、甲状腺濾胞癌を始め、種々の癌の導出血管内に内皮細胞に表面を覆われる腫瘍塊が観察された。また、これらの症例の原発巣内には類洞様血管の発達が顕著であった。このことはヒト癌にもinvasion-independent pathwayを介する転移機構が存在することを示している。
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