研究概要 |
1.マウス転移モデルの作製と転移関連遺伝子の探索:Invasion→independent pathwayを介する転移性マウス乳癌細胞株(MCH66P)より非転移性クローン(66C8)や全身性に高い転移能を示す細胞亜株(60HM,Lu10)など、転移能の異なる複数の細胞亜株・クローンを分離した。これら細胞の比較から、invasion-independent metastasisには高い血管新生活性、特に類洞様血管の発達が関与することが明らかとなった。これらの低転移・高転移性細胞とMCH66Pとの発現遺伝子の違いをsuppressive subtractive hybrodization法を用いて解析した結果、Pleiotrophin,Secretory leukocyte protease inhibitor(SLPI),S3B(仮称)等がinvasion-independent metastasisに関わる候補遺伝子としてクローニングされた。これらの遺伝子を66C8に導入し、発現を亢進させた結果、SLPIのtransfectant(C8-SLPI)が肺への自然転移能を増強した。C8-SLPIの移植腫瘍には類洞様の腫瘍血管が誘導され、invasion-independent pathwayを介する転移能の亢進であることを示していた。 2.Invasion-independent metastasis modelのヒト癌への応用:外科的に切除されたヒト癌の病理組織標本を用いた検討から、腎細胞癌、肝細胞癌、甲状腺濾胞癌で高率に、肺癌、食道癌、胃癌、大腸癌、子宮癌、乳癌、膵癌の一部に、血行性転移におけるinvasion-independent pathwayが存在することが示された。マウスモデルに転移誘導をきたしたSLPIは種々のヒト癌に発現し、特に腎細胞癌に高い発現を示すことが明らかとなった。 本研究の成果はSLPIをはじめとする新たな癌転移関連遺伝子の同定とその分子メカニズム解明の基盤となり、ヒト癌の診断・治療戦略に貢献することが期待される。
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