細胞内小器官であるミトコンドリアには核と異なる独自の遺伝子が存在する。ミトコンドリアDNA異常に基づくミトコンドリア病の根本的治療には、従来の核遺伝子への遺伝子治療法とは異なる、ミトコンドリアを標的とした新たな遺伝子導入法の開発が必要である。本研究では、ミトコンドリア融合因子を有効構成成分とするミトコンドリアを特異的に標的する新規なリポソームベクターの基礎的開発を目的としている。このようなベクターを開発することによって、正常なミトコンドリアDNAだけでなく、リボザイムなどの任意の外来性遺伝子やミトコンドリアの機能を調節する薬剤などをミトコンドリア内に導入することが可能となり、将来的にはミトコンドリアの機能が関わる多くの疾患を対象とした新たなドラッグデリバリーシステムとして利用が可能になると考えられる。 我々はミトコンドリア融合因子であるヒトFzoタンパク質を単離し、膜融合活性の必須ドメインを同定した。またこのドメインの組換えタンパク質を作製し、試験管内で作成したプロテオリポソームを用いて膜融合活性を証明した。さらにミトコンドリア融合装置のひとつであるOPA1タンパク質を検討し、ヒト細胞にアイソフォームが存在しミトコンドリア内の局在が異なることを明らかにした。本因子はミトコンドリア融合装置の補助因子のひとつである。このように、ミトコンドリア融合装置の全容を明らかにすることはミトコンドリアを標的するリポソームベクターのミトコンドリア融合効率を高める上で重要である。今後はミトコンドリアDNAを抱埋した本プロテオリポソームを細胞にマイクロインジェクションすることにより、実際に細胞内でミトコンドリアを標的するかを検討することが重要である。本研究はミトコンドリア病の遺伝子治療の基礎的技術を確立する第一歩である。
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