研究概要 |
本研究では、ヒトインスリンのC末端にGFPを融合したキメラ蛋白質を初代培養膵β細胞に発現させることでインスリン顆粒を標識し、エバネッセント顕微鏡下で顆粒の供給、docking、fusionをリアルタイムでかつ単一顆粒レベルで画像解析した。今年度は特に2型糖尿病モデルGKラット由来のβ細胞を用いて、正常ラット由来β細胞と比較検討することにより、以下の点を明らかにした。 (1)グルコース刺激による膵β細胞からのインスリン分泌は2相性である(第1相は予め形質膜にdockingしている顆粒からのfusionであり、第2相は新たに供給されて形質膜上にdockingした顆粒からのfusionから成ることを前年度に報告している)。2型糖尿病モデルGKラットではインスリン分泌第1相におけるfusion event数は大きく低下した。一方、第2相におけるfusion event数は正常ラットと同程度であった。またGKラット由来のβ細胞では予め形質膜にdockingしているインスリン顆粒数が正常ラットに比べて大きく減少していた。 (2)開口放出において重要な役割を果たすことが知られているt-SNARE蛋白質、syntaxin 1A, SNAP25はβ細胞形質膜上にクラスターを形成して局在しているが、GKラット由来のβ細胞ではt-SNAREクラスターの数が減少していた。 (3)GKラットにインスリン治療(2週間)を行い、血糖値が正常レベルまで回復したGKラットβ細胞では、t-SNAREクラスター数が正常ラットβ細胞と同レベルまで回復し、またdockingしているインスリン顆粒数が正常ラットβ細胞と同レベルまで増加した。 (4)GKラットβ細胞にアデノウイルス(Adex1Ca SNAP25)を用いてSNAP25を過剰発現させた結果、SNAP25クラスター数増加とともに、dockingしているインスリン顆粒数が正常ラットβ細胞と同レベルまで増加した。 (5)インスリン治療、およびSNAP25の過剰発現により、GKラットβ細胞のインスリン分泌第1相におけるfusion event数は正常ラットと同レベルまで回復した。 以上の結果より、t-SNAREクラスターがdockingしているインスリン顆粒数を調節しており、インスリン分泌第1相を調節していることが明らかとなった。また、t-SNAREクラスターの減少、それに伴うdocking顆粒の減少が2型糖尿病と関連していることが強く示唆された。
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