ピルビン酸キナーゼ(PK)異常症モデルマウス(Pk-1^<slc>)脾臓において、赤芽球の著明なアポトーシスが観察される。脾臓内での赤芽球アポトーシス亢進はヒトPK異常症症例にも認められたことより、PK異常症における貧血発症には網内系でアポトーシス赤芽球がマクロファージにより排除されることが関与していると考えられる。赤芽球アポトーシスの程度はPK異常症モデルマウス造血幹細胞への赤血球型PK(R-PK)遺伝子導入により減少し、溶血性貧血も改善する。これらの実験結果から、正常PK遺伝子導入によってアポトーシス誘発遺伝子の発現低下、あるいは抗アポトーシス遺伝子の発現上昇が起こったと考えた。今年度はPk-1^<slc>から樹立したフレンド細胞株SLC3に野生型R-PKcDNAを導入し、R-PKの過剰発現がアポトーシスをどう修飾するのか検討した。 ヒトR-PKcDNAを発現ベクターpcDNA3.1により遺伝子導入を行った。G418による選択の結果、stable transfectantを得た。R-PK発現レベルは、RT-PCRおよびWestern法およびPK活性測定により実施した。細胞形態、DNAラダー、フローサイトメトリーを用いたSubG0/G1期細胞の各パラメーターでアポトーシスの判定をした。 細胞内R-PK活性が親株よりそれぞれ20、50%高い2つのサブライン、huRPK.loおよびhuRPK.hiを得た。トランスジーン発現量依存的にアポトーシス形質の低下が認められた。このことからR-PK遺伝子導入により、アポトーシス誘導分子の低下あるいは抑制分子の増加が起こったと考え、親株であるSLC3とhuRPK.loおよびhuRPK.hiとの間で発現遺伝子プロファイルを検討した。22690遺伝子について検討した結果、約7%の遺伝子について発現低下が認められた。一方、発現が有意に増加した遺伝子は全体の0.2%に過ぎなかった。発現が低下した遺伝子の中には、Bnip3/Nix、Blk/Bikなどのアポトーシス誘導分子が含まれており、それらの遺伝子産物がR-PK活性低下による赤芽球アポトーシスに関与している可能性が示唆された。
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