ピルビン酸キナーゼ(PK)異常症は赤血球(R)型PKアイソザイムの質的、量的異常のため赤血球寿命に短縮が生じる遺伝性溶血性貧血の一病型である。今まで本症の病因は脱核後の赤血球における代謝異常の結果、病的赤血球が網内系に捕捉されることによると考えられていた。 今年度、頻回の輸血が必要な重症PK異常症症例について、脾臓における髄外造血および赤血球系前駆細胞の検討を行った結果、重症PK異常症において脾臓内CFU-GM、BFU-E、CFU-GEMMが著明に増加していること、R型PKに変異を有する赤芽球系細胞にアポトーシスが惹起していることが明らかになった。これらの結果より、赤芽球の分化・成熟過程で発現が亢進するR型PKに変異が生じることで髄外造血が亢進するものの、赤芽球がアポトーシスに与り死滅することが明らかになった。このことからPK異常症における貧血の病態の一部が無効造血によることが示唆された。 R-PK変異によるアポトーシスのメカニズムを明らかにするため、PK異常症モデルマウスから樹立したフレンド細胞株SLC3に正常R-PKを恒常的に発現する2つの子株SLC3-hRPK.hi、SLC3-hRPK.loを得た。R-PK発現量によるアポトーシス修飾を比較検討すると共に、SLC3親株、hRPK.hi、loの間で発現遺伝子プロファイリングを行い、R-PK変異による赤芽球アポトーシスの責任遺伝子同定を試み、アポトーシス誘導因子BNip31、Pdcd6ip、Casp8ap2、Faf1およびBlkの発現レベルがR-PK強制発現により低下することを同定した。 これらの候補遺伝子の発現レベルを修飾することがPK異常症を初めとする解糖系酵素異常症の根治療法となる可能性があると考えられた。
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