研究概要 |
本研究では、乳腺の切除材料やcore needle biopsy材料を利用して、早期乳癌発生を検索する目的で、前癌病変を含む乳腺病変のホルモンレセプターとその関連因子、細胞周期関連因子発現検討をおこなった。特に14-3-3σ蛋白やEfp(estrogen responsive RING-finger protein)、p63に注目して検討した。 症例:低悪性度の非浸潤性乳管癌(DCIS)を主体に、特殊型を含めた浸潤癌や良性のcounterpartとして過形成病変の検討も行った。また各種keratin、ER、p63、p53などと対比検討した。また異型嚢状小葉(atypical cystic lobules;別名異型を伴う円柱状過形成CCHA)も検討した。 結果:p63、14-3-3σともに正常小葉の筋上皮細胞に存在した。14-3-3σ発現は、癌では非浸潤癌、浸潤癌と減少した。癌病巣において14-3-3σとERの発現が逆相関する傾向にあった。特殊型ではp63は腺嚢胞癌、14-3-3σは粘液癌と扁平上皮癌で陽性となった。乳腺のpremature cell(stem cell)の分化・増殖へのp63および14-3-3σの関与が示唆された。 1)通常型乳管過形成、非浸潤性乳管癌、浸潤性乳管癌の3病変について ほとんど(81%)の通常型乳管過形成では14-3-3σ強陽性であり、筋上皮細胞に濃く染まったが、17例(65%)では、CK14陽性・actin陰性細胞に陽性所見が見られた。非浸潤性乳管癌では34例中22例(65%)に14-3-3σ強陽性であり、細胞質にびまん性の染色性を示した。1例CK14陽性症例があり、この症例では同じ細胞に14-3-3σ陽性であった。浸潤性乳管癌では71例中16例(23%)で14-3-3σ陽性であり、そのうち半数は強陽性であった。全ての通常型乳管過形成の症例でERα陽性であり、非浸潤性乳管癌(82%)、浸潤性乳管癌(65%)と減少した。p53の陽性率は、それぞれ0%、18%、27%と増加し、ERαと逆相関した。Efpの染色の濃さは様々であったが、いずれの病変でも半数以上の症例で陽性であり、そのうち半数は強陽性であった。 2)異型を伴う円柱上皮過形成(CCHA, columnar cell hyperplasia with atypia)について CCHAにおいて、14-3-3σはほとんどの症例で周囲の筋上皮細胞に限局しており、3例(21%)で乳管上皮細胞にも発現が見られるものがあった。すべてのCCHAはERα陽性であり、p53陽性例は1例も見られなかった。Efpは約半数の症例に陽性だった。 考察:免疫染色結果より、14-3-3σ発現の消失が通常型乳管過形成の8%、非浸潤性乳管癌の35%、浸潤性乳管癌の77%で見られることがわかった。14-3-3σは癌抑制遺伝子であることを裏付けた。14-3-3σ蛋白の減少の機序としては、今回3病変間でEfpの陽性率に差は見られず、乳癌において発現の減少は、メチル化による発現抑制の影響の方が大きいのではないかと考えた。蛋白発現の減少割合は報告によるメチル化の割合よりも低いのは、メチル化が部分的なものであると考えられる。CCHAにおける14-3-3σ発現は通常型乳管過形成より非浸潤性乳管癌に近い染色態度であり、乳癌発癌過程においてCCHAは非浸潤性乳管癌の前がん病変であると考えられた。
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