肺腺癌の浸潤先端部において発現する炎症・組織修復に関連した遺伝子発現の制御機構を解明するため、本年度は以下の研究を行った。 1.laminin-5γ2鎖の転写開始地点の上流1.5Kbの領域をPCRにより増幅しルシフェラーゼアッセイ用ベクターに組み込み、まずこの領域の転写活性がTGF-α添加によるlaminin-5γ2mRNAの誘導を制御していることを確認した。次にこの転写開始地点の上流1.5Kbの転写活性は、(1)活性形MEKの導入により20倍に誘導され、逆にMEK阻害剤の添加により抑制されること、(2)野生型p53により強く抑制されるが、変異型p53には抑制作用がないことを見い出した。従ってlaminin-5γ2鎖の誘導にERK-MEKの径路が関与し、その抑制にはp53が重要であるものと推定された。さらにこのような制御は転写開始地点の上流0.5Kbまで欠損させたベクターでも認められることから、この領域にさらに変異を導入し解析を継続中である。 2.切除肺腺癌組織20例を用いて、炎症・組織修復、癌浸潤に関連したシグナルの活性化を免疫組織学的に検討した。その結果、頻度、分布、強度の違いはあるものの、c-met(4/20例)、ERK(15/20例)、JNK(3/20例)、p38(7/20例)の活性化を認めた。NF-κBに関しては、p65、p50の発現は全例において認め、また症例による違いはあるが、少なくとも一部の腫瘍細胞においては核内の局在が観察された。さらに症例数を増やすとともに、培養細胞を用いた検討も進めている。
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