肺腺癌の浸潤先端部において発現する炎症・組織修復に関連した遺伝子発現の制御機構を解明するため、昨年度は、laminin-5γ2鎖の転写開始地点の上流1.5Kbの領域を組込んだルシフェラーゼアッセイ用ベクターを作成し、laminin-5γ2鎖の転写が、活性形MEKと変異型p53により、それぞれ正と負に制御されていることを示した。本年はさらに、(1)laminin-5γ2鎖転写調節領域を5'方向から欠失させた数種類のルシフェラーゼアッセイ用ベクターを作成し、調節領域のさらに詳細な解析を行った、その結果、転写開始地点の上流100塩基の領域には、1.5Kbの領域とほぼ同様な転写活性があり、また活性形MEKと変異型p53による制御を保持していることが明らかとなった。 (2)様々な変異型p53と野生型p53の比較し、laminin-5γ2鎖の転写抑制が、多くの変異型p53で失われていることを見い出した。 (3)p53 familyのp73にもp53同様、laminin-5γ2鎖の転写を強力に抑制する作用があることを見い出した。 p73がin vitroの系でlaminin-5γ2鎖の転写を抑制することから、外科切除検体を用いて、肺腺癌組織におけるp73の発現を免疫染色にて検討し、その臨床病理学的因子との相関を調べた。その結果、p73陰性の症例はp73陽性例に比べ予後不良であることが判明した。p53陽性、p53陰性例との間で生存率に統計的有意差はなく、p73がp53よりも予後因子としてより有用である可能性が示唆された。さらに多変量解析により、p73は、病期、リンパ節転移、脈管侵襲といった因子と独立した予後因子であることも明らかとなった。
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