ヒト消化管の内分泌細胞腫瘍群は、高悪性度の内分泌細胞癌と低悪性度のカルチノイド腫瘍とを包含しており、両者の組織診断基準の確立が要請されている。本腫瘍群の分類は本邦内では研究者間、国際的には諸分類間で大きく異なる。この課題を解決するために消化管内分泌細胞腫瘍の特性と人種間異同を解析し、以下の新知見を得、報告した。 1.消化管内分泌細胞腫瘍の人種間異同の解明のために、本腫瘍の日本分類と欧米分類(WHO分類)とを対比しく両分難の基本的立場の違い、日本分類からみた欧米分類の問題点を報告した。また、欧米の内分泌病理医との間で組織診断基準の異同を討議した。 2.日本人では欧米人と異なり、胃カルチノイド腫瘍が自己免疫性胃炎やZollinger-Ellison症候群に随伴して発生することは少ない。日本人の胃カルチノイド腫瘍の発生機序に関して、ヘリコバクター・ピロリ菌感染による胃底腺粘膜萎縮とそれに伴う高ガストリン血症との関連性を報告した。 3.胃内分泌細胞癌とその随伴腺癌でp53蛋白異常を免疫組織化学およびアミノ酸配列から検討し、両者間でp53蛋白異常の相同性が高いことから、胃内分泌細胞癌は先行腺癌内に出現する腫瘍性内分泌細胞クローンから発生する場合が多いことを報告した。 4.近年明らかになった内分泌ホルモンであるグレリンが免疫組織化学的に消化管の正常組織(特に胃底腺粘膜)および腫瘍組織(胃内分泌細胞癌)、に出現することを報告した。 5.虫垂の内分泌細胞微小胞巣とカルチノイド腫瘍を検討し、虫垂微小カルチノイド腫瘍は「豊富な弱好酸性微細顆粒状〜淡明な細胞質と円形〜卵円形核を有する低異型度内分泌細胞から均一に構成される大きさ100μm以上の内分泌細胞微小胞巣集簇巣」と定義されることを報告した。
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