研究概要 |
病理組織診断において組織・細胞試料を直接扱う立場から、遺伝子解析に適した組織保存法およびそのプロトコール作成の重要性を追究してきた。凍結乾燥後の組織は、室温保存が可能で、形態学的解析および遺伝子解析に有用であることを見出し、その条件を詳細に検討してきた結果、以下の点が本研究で明らかとなった。 1)長期間の凍結乾燥保存後にも、高分子状態が保たれたDNA, RNA,タンパクの解析が可能である。DNAとタンパク解析については、5年間保存後も分子の分解はほとんど認められなかった。RNAは通常の凍結乾燥保存では分解が経時的に進行するが、RT-PCR解析は可能であった。トレハロースおよびEDTA処理後に凍結乾燥保存を行うとRNA分解が阻止できることを見出した。トレハロース浸漬による水分子の置換をすることによって、組織のガラス化移行が促進され、氷結晶による組織・細胞傷害を軽減できることが明らかとなった。形態学的保存性の向上も平行して認められた。 2)凍結乾燥後の室温保存には、湿度と酸素の遮断が必要であるが、保存温度を室温以下に保つ必要性がないことが明らかとなった。 3)タンパク解析が必要でない場合は、アルコールなどによる凍結置換法を用いることができ、これによって組織からの脱水効率が上がり、分子の保存性が向上した。 4)塗沫細胞標本についても、組織と同様の保存方法を有効であった。
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