研究概要 |
難治性悪性リンパ球系腫瘍であるマントル細胞腫の増殖進展の分子機構と治療への足がかりを解明するため、その分子病理学的特徴であるt(11;14)染色体転座に基づくcyclin D1過剰発現に焦点を定め、解析を開始した。 第一段階としてモデルcell lineとする患者より樹立された2種のヒト・マントル細胞腫株SP-53,SP-49の分子生物学的性状の解析を行った。結果cyclin D1過剰発現、リン酸化酵素Cdk4の発現が確認された。興味深いことにcyclin D1-Cdk4 complexに特異的に結合しその活性を抑制する癌抑制遺伝子P16(INK4a)がSP-53では発現完全喪失、SP-49では発現の明かな低下を認めた。一方、ヒト・マントル細胞腫摘出組織にてこの点を追加検索したところ11例中6例(〜50%)で同様にp16発現喪失が確認された。 cyclin D1の豊富な発現はCdk4 のhyper-activationを誘導すると考えられることから、腫瘍細胞で欠損しているp16-INK4a分子の機能補填によるcyclin D1機能の特異的阻害を試みた。当初企図したPTD融合性蛋白分子の導入は、融合蛋白の不可溶化や細胞内への導入効率の劣化により困難と判明したため、P16の機能性配列をコードしたPTD-fusion p16-oligo peptideに新たな改良を加えた、浮遊細胞系で非常に効率の高い標的分子導入系を検討し、その確立に成功した。この改良型PTD-fusion p16 peptideは従来導入困難であったBリンパ球系に既報告の約1/50の低濃度で30分以内にほぼ100%の効率で取り込まれ、また細胞内局在の操作も可能で、p16の作用点である核内への標的を可能にした。このシステムを用いた結果、SP-53,SP-49の増殖動態の解析で、対照群と比較してp16-peptide導入24時間後には約70%以上の抑制率を発揮し増殖抑制に働いた。 現在、同peptideがcyclin D1-Cdk4活性抑制に直接機能しているかを解析中である。
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